特殊的好奇心と好奇心の尺度
特殊的好奇心という言葉を知った。
これは心理学者のBerlyneの「Conflict, arousal, and curiosity」によって提唱された概念である。本を読んだわけだわけではないが、調べてみると 知的好奇心尺度の作成 [1]という論文を見つけ、様々な知らない世界があったのでメモ。
Berlyne氏は好奇心には2つあり、知的好奇心と知覚好奇心とした。知覚好奇心は聴覚・触覚・味覚・嗅覚・視覚の身体的感覚の新規性を求めることである。知的好奇心はさらに2つあり、拡散的好奇心と特殊的好奇心があるとした。 知的好奇心尺度の作成 では拡散的好奇心は新奇の情報を探し求めることを動機付け、特殊的好奇心はズレや矛盾などの認知的な不一致を解消するために特定の情報を探し求め続けることを動機付ける、としている。論文内の例として、拡散的好奇心はたまたま推理小説を手に取り読むこと、特殊的好奇心は推理小説の内容を理解するまで何度も読むことが挙げられている。
論文は尺度を作るための2つの研究からなっていて、1つは12個の設問により拡散的好奇心と特殊的好奇心の尺度を作成し、もう1つはいくつかの他の尺度と比較して妥当性を検証している。比較対象の尺度も面白かったので紹介してみる。
- Big Five尺度:利用しているのはBig Five尺度短縮版[2]である。人のパーソナリティを5つの要素に分類する Five Factor Model では、外向性、協調性、誠実性、神経症的傾向、開放性がある。これらを形容詞を利用して評価するのがBig Five尺度であり、オリジナルより少ない設問数で評価できる短縮版もある。外向性は名前の通り外交的な人間かどうか。協調性・誠実性も同様に文字通り。神経的症傾向は緊張やストレスへの耐性。開放性が好奇心に強く結ばれており、この尺度が高いと新しいアイデアや既存にとらわれない考えができるとされている。
- BIS/BAS尺度:人の動機付けを評価する尺度であり、 BIS(Behavioral Inhibition System)は罰を避ける動機付け、BAS(Behavioral Activation System)は報酬を求める動機付けを評価する。BASにはさらに3つの要素があり、それぞれ駆動・刺激探求・報酬反応性とされている。駆動は報酬のために行動する・刺激探求は報酬がありそうならやってみる・報酬反応性は報酬があるなら興奮するといった感じの理解をしている。
- 話はそれるがBIS/BAS が意思決定フレーミング効果に及ぼす影響という論文も面白かった。
- 認知的完結欲求尺度:問題に対する回答に曖昧さを嫌い完結さを欲求する尺度である。心理テストとかで時折出てくる「決断するのに苦労する・時間をかける」(Yesだと低い)や「重要な決断を素早くできる」などに代表される決断性、「規則正しい生活が合っている」などの秩序(完璧に私は秩序がない人間だ)、「何がわからない状況だとワクワクする」(Yesだと低い、私は100%Yesである)や「何やるかわからない人とは行動したくない」などの「予測可能性」の3つの尺度がある。
- 認知的欲求尺度:簡単に言えば「頭を使うのが好き」とか「必要以上に課題に対して考えてしまう」などによって評価する。私は100%Yesである。
- 曖昧さへの態度尺度:曖昧さにたいしてYes/Noという単純な尺度ではなく、さらに享受・受容・統制・排除・不安という5つの要素に分離した尺度。享受は曖昧であると全部試したい/想像する。受容は曖昧であることを良しとする。統制は曖昧な情報の確度を高める。排除は曖昧な状態が嫌いである。不安は曖昧な状態から遠ざかりたい。似ている感じもするがこの5つは独立している尺度らしい。
知的好奇心尺度の作成では3つの仮説を立てている。
- 拡散的好奇心・特殊的好奇心には知的好奇心としての共通性がある。具体的には「開放性尺度」、「BAS駆動尺度」、「認知的欲求尺度」との関連が高い
- 特殊的好奇心は拡散的好奇心に比べ「認知的完結欲求尺度」「曖昧さへの統制尺度」「曖昧さへの排除尺度」「曖昧さへの不安尺度」との関連が高い
- 拡散的好奇心は特殊的好奇心に比べ「BAS刺激探求尺度」「曖昧さへの享受」「曖昧さへの受容」との関連が高い
全てが一致しているわけではない(特に知的好奇心がある人間は曖昧さへの否定的態度を取るため)が、概ね仮説通りという感じの結果だった。
今回知った尺度を個人に投影すると面白い。私としては知的好奇心はある方だと思っているが、今回の指標全体的に拡散的好奇心・特殊的好奇心両方の側面もありそうでこういった尺度に裏付けされることがわかる。しかし「認知的完結欲求尺度」はいずれも当てはまっていない。これはこの世界には未知しか存在しないからこそ未知に出会える環境にワクワクしているというある意味で好奇心のようなものかなと。
西川一二, 雨宮俊彦. 知的好奇心尺度の作成 - 拡散的好奇心と特殊的好奇心. 教育心理学研究. 2015. 63巻. p412-425. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep/63/4/63_412/_pdf ↩︎
並川努, 谷伊織, 脇田貴文, 熊谷龍一, 中根愛, 野口裕之. Big Five尺度短縮版の開発と信頼性と妥当性の検討. 心理学研究. 2012. 83巻2号. p91-99. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/83/2/83_91/_pdf ↩︎