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ユーザとユーザー、どうして差がついたのか、慢心、環境の違い

ハローワールド

Windows XPとWindows11。時代が変われば様々なものが変わります。

その中で下記のような表記の違いがあります。

Windows XPとWindows11のComputerの表記の違い

Windows XPでは「コンピュー」であり、Windows 11では「コンピューター」です。
これと似た例では「プリンタ」と「プリンター」があります[1]

今回は英語をカタカナに直したときの長音符についてです。

なんで表記に違いがあるの

たまたま見かけたこのYoutubeの動画、これを見てとっぷらちゃんはピンときました。

なるほど、表記の違いは「イギリス英語」と「アメリカ英語」の違いなんだな、と。

この「r」を発音するかどうか、というのはrhoticnon-rhoticという単語になるぐらいには顕著な違いです。万年日本人の僕にはあんまりわからない違いですが。

具体的な違いは上記の動画にもありますが、子音の前のrと最後のrを発音するかどうかです。とりわけこの記事の本題に関わるのは最後のrを発音するかどうかですね。

即ち「user」を「ユーザ」に近い発音をするのがイギリス英語、「ユーザー」に近い発音をするのがアメリカ英語ということですね。

Googleでは発音も確認できるのでその違いを見てみます。アメリカ英語が伸びているかはともかくとして、イギリス英語は間違いなく「ユーザ」と最後が止まっています。

なんで「ユーザ」が使われているの

皆さんは「ユーザ」派でしょうか、「ユーザー」派でしょうか。

私の勝手な想像の話ですが、最近のエンジニアは「ユーザー」が多く、昔からエンジニアをやっている人は「ユーザ」が多いのかな、という印象です。

アメリカ英語、イギリス英語の違いというのはわかりました。ではなんでこの二つの表記が存在しているのでしょうか。

調べてみると、実は末尾に長音符をつけない人はおおよそ工学系の人間に多いのではないか、という推測が立ちました。

外来語の書き方のルール

「うろおぼえ」と「うるおぼえ」、のように日本語ですら表記ゆれ(と呼ぶのがふさわしいのかはともかく)が発生するのに、外来語に表記ゆれが発生しないわけがありません。

もし、いわゆる文豪が好きだったり、もしくは中学高校のときにそういった時代の小説を読んだ方はピンとくるかもしれませんが、戦前の時代の小説には現代ではあまり使われないようなカタカナの表記が登場します。とりわけ川端康成は長音符を使わずにすべて母音で記載することが多いらしく、「カアテン」や「コオト」などの表記をしています[2]

おおよそ動乱と呼ばれるような時代に、数多くの外来語が現れ、数多くの外来語がそのまま日本語となったことでしょう。そういった外来語の表記に関して、昭和29年にはすでにルールの整備が行われていたようです。

外来語の表記に関して[3]は昭和29年に発行された文章(というか審議の結果)で、様々な外来語の表記のルールが書いてあります。その中に、末尾の長音符についてもルールが定められています。

16 言語(特に英語)のつづりの終りの-er, -or, -ar, などをかながきにする場合は, 長音符号「ー」を用いる。
ライター(lighter) エレベーター(elevator)
ただし, これを省く慣用のあるものは必ずしもつけなくても良い。
ハンマ(hammer) スリッパ(slipper)
ドア(door)

昭和29年当時から、実は末尾に長音符をつけるルールが合ったのですね。

平成三年にも上記に似たように、外来語の表記を示す内閣告示第二号があり、そこにも基本的には長音付をつける記載があります[4]

工学系での外来語の表記

JIS規格にも上記の告示のような規則があり、それがJIS Z8301です。

ではここでJIS Z8301:2008を見てみます。

G.3-外来語の表記に語尾の長音符号を省く場合の原則

原則
a) その言葉が3音以上の場合には,語尾に長音符号を付けない。 エレベータ(elevator)
b)その言葉が 2 音以下の場合には,語尾に長音符号を付ける。 カー(car),カバー(cover)
複合の語は,それぞれの成分語について,上記 a)又は b)を適用する モータカー(motor car)
上記 a)〜c)による場合で,長音符号を書き表す音(例 1),はねる音(例 2),及びつまる音(例 3)は,それぞれ 1 音と認め,よう(拗)音(例 4)は1音と認めない。 1. テーパ(taper) 2. ダンパ(damper) 3. ニッパ(nipper) 4.シャワー(shower)

JIS規格では外来語の長音符を省く方向の記載がされていました。
これは、少なくとも1996年のJIS規格ではこうらしいので、古くからエンジニアリング界隈では盛んな表記方法だったと推測できます。

また、当時のこういった表記に対しての評価がわかるいくつかの記事があるので紹介します。

「コンピューター」と「コンピュータ」はどちらが正しいのですか? 2006年

「コンピュータ」を通ぶった・きどった表記だと感じる人もいるのかもしれませんが、わたしの感覚では、「コンピュータ」の方がふつうの表記です。逆に「コンピューター」では、年寄りくさく感じられます。実際に、「コンピュータ」の方が近年では優勢なのではないかとも思います

おそらく現代ではこの感覚、逆なのでは?と私は思います(あくまで私が)。おそらくですが、当時は最先端のスキルを持ついわゆる「オタク」(悪意のある言葉ではないですが、あえて言い方を変えるなら「ギーク」)達の流行は長音符を付けないことだったのだと思われます。

JIS Z8301に表記を従うのか? 2009年

どちらが良いというわけではありませんが、「マイコンピューターにあるフォルダー開いて、プリンターサーバー経由で…」ってなんだかマヌケな気がしますよね

これも、現代では「マイコンピュータにあるフォルダ開いて、プリンタサーバ経由で」と言う人のほうが少ないのでは?と感じます(あくまで私は)。まぁ、もうマイコンピュータないですけど。

なんで工学系だけ?

これについて調べたものがあまりないので、あくまで私の推測や確証のないものです。

冗長だから

少なくとも確実な理由の1つだと思われます。

冗長だから省く、というのは3,40年前ではとりわけ重要なエッセンスになります。特に言葉をデータに変換する場合ですね。

私は正直あんまりわかりませんが、昔は(今の組み込みもでしょうか)メモリが重要なもので、1bitでも削れる場所は削るという時代でした。そんな時代に(まず効率の悪い日本語を入れるかどうかはさておき)一文字でも削れるものなら削れますよね。または通信回線が貧弱だった時代に1byteでも削れるなら、というのも同じことでしょう。
即ち、意味が通じれば言葉すら削る、といった背景があると考えられます。

また、今もこういった人たちはムダを省くのが好きです。その性格も反映されているかもね。

少なくとも高専時代の恩師は上記のようなことを言っていたので、あながち間違いではないでしょう。

工学系ではイギリス英語が多かったから

2006年のとある教えて!gooの回答にはこんなことが記載されていました。

明治初期の日本ではドイツ語が幅を利かせていたようで、ドイツ語ではたとえば「クロマトグラフィー」のように語尾を延ばして発音しますが、英語では「クロマトグラフィ」という感じになります。明治初期にドイツから日本に入ってきた学問は医学や化学などで、これらの学問分野の用語は現在でも語尾に長音記号を付けるのが普通です。
一方電気・電子分野は戦後になって大きく発展し、主に英語を通じて日本に伝えられたもので、英語の発音ではたとえばCOMPUTERは「コンピュータ」となり、「コンピューター」と語尾を延ばすことはありません。「センサー」も実際には「センサ」という感じの発音になります。「エレベータ」や「エスカレータ」などもそうですが、日本ではドイツ語の影響で語尾を延ばす習慣が長く続いたため、一般には「コンピューター」、「センサー」、「エレベーター」、「エスカレーター」のように書いたり喋ったりしますね。

説得力はありますね。アメリカ英語だとComputerは結構「コンピューター」って発音ですが、数十年前はイギリス英語が多かったのかも知れません、多分。

ハイフンと見間違えることがあるから

調べているとちょくちょく見かける理由ですね。

「コンピューター - 1」と「コンピュータ - 1」みたいな場合、前者だと「ー(長音符)」と「-(ハイフン)」を見間違えるってことですね。
単純に読み物として読む分ならまだしも、これを書き写す場合などは間違えるかも知れませんね。間違えてなんかあるのか、といわれたらわかりませんが。

現在の結論

実は、長音符を省き続けていた、JIS規格さんですが、JIS Z8301:2019ではそのルールを変更しました。

H.6 外来語の表記
外来語の表記は,主として“外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)”による。

この内閣告示第2号というのは、上記にも登場しているルールであり、これは-er, -or, -arなどに長音符をつけるルールも含まれています。
即ち、JIS規格も国のルールにシフトして、長音符をつける方向に進んでいます。

また、本記事の最初に示したとおりWindows XPからWindows 11(正確にはWindows 7とかVista)への変遷をたどると、Windowsも末尾に長音符をつける方向にシフトしています。

このように、今ではむしろ長音符を付ける方向に流れています。これは単純に工学系以外の(末尾に長音符をつけるのが一般的な)人たちに工学系の用語が広がった、というのが要因の1つになっていると考えられます。そして、工学系以外の人達は内閣告示第二号などの影響で長音符をつけるのが普通で、工学系の人たちはJIS(やその背景・環境)の影響で長音符を付けないのが普通なので未だにユーザとユーザーがいるんですね。

もちろん数多くの例外があります。メモリ・プロセッサ・トランジスタ・レジスタ・コンデンサ・エンジニア。日本全国に普及していますが、未だにUSBメモリでありUSBメモリーではないですよね(なんとなく、USBメモリーを見たことある気もしますが)。
正直、コンピューターは許せますが、エンジニアーは許せませんよね。僕はいつまで立ってもWebエンジニアがいいです(Web以外になるかも知れませんが)。
おそらく、コンピューターを許せない人も同じように要るでしょうし、20年後はエンジニアーの人たちが多いかも知れません。

所詮、個人の感覚・時代・環境ですよ。


  1. ちなみにこんなブログの表題ですが、Microsoftさんの「user」はMS-DOS時代からずっと「ユーザー」です。 ↩︎

  2. http://repository.seikei.ac.jp/dspace/bitstream/10928/347/1/kokubun-46_17-31.pdf 2021/11/28閲覧 ↩︎

  3. https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/sisaku/enkaku/pdf/06_153.pdf 2021/11/28閲覧 ↩︎

  4. 文部科学省のページが消えているので、現時点でこの文章を見るのが難しそうですが。… ↩︎